原状回復工事という仕事|電気工事士が、古い部屋を今の暮らしに戻していく
電気工事士の仕事を紹介する記事はたくさんあります。ただ、そのほとんどが「屋内配線工事」「外線工事」「鉄道電気工事」といった分類の説明で終わります。
分類は正しいのですが、それを読んで仕事の中身を想像できる人は少ないと思います。
この記事では、そういう分類にはあまり出てこない、けれど毎日どこかで行われている仕事の話を書きます。原状回復工事です。
原状回復工事ってなに?
賃貸の部屋から人が退去したあと、次の人が住めるように整える工事のことです。
壁紙を張り替えて、床を直して、掃除をして——というイメージが強いと思いますが、そこに電気工事士が入ります。
一人暮らしをしたことがある人なら、引っ越してきた日の部屋を思い出してみてください。前の人が住んでいたはずなのに、キレイになっていましたよね。あれは誰かが直したからです。
関東には、驚くほど古い建物が残っている
現場を回っていると、まず驚くのが建物の古さです。
外から見ると重厚で立派なマンション。でも中に入ると、部屋は年季が入っている。外観と中身のギャップは、実際に見るまで想像しにくいと思います。
これは感覚の話ではなく、数字にも表れています。国土交通省の推計によると、2024年末の時点で築40年以上のマンションは約148万戸あります。しかもこれは増え続けていて、20年後には約3.3倍になる見込みです。
2024年末で、築40年以上のマンションは約148万戸存在する。今後、10年後には約2.0倍、20年後には約3.3倍に増加する見込み。 ——国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」
築40年ということは、建てられたのは1985年以前。バブル期やその前後に大量に建てられた建物が、今まさに一斉に古くなっているということです。
古い部屋で、電気工事士は何をしている?
当時の部屋は、当時の暮らしに合わせて作られています。だから今の生活に合わせるには、手を入れる必要があります。
白熱電球をLEDに替える
まだ白熱電球のままの部屋があります。LEDに替えるだけで電気代が下がり、球が切れる頻度も減ります。住む人が最初に体感できる変化です。
コンセントを増やす
これは本当に多い依頼です。当時の部屋は、スマホもパソコンもゲーム機も無い前提で作られています。部屋にコンセントが1〜2口しかないことも珍しくありません。
タコ足配線は火災の原因になります。増設は安全のための工事でもあります。
エアコン専用の回路を新しく引く
古い部屋には、そもそもエアコンを付ける前提が無いことがあります。専用の回路が無いまま使うとブレーカーが落ちますし、危険です。
分電盤から新しく1本引く。 これは資格が無いとできない工事です。
引掛シーリングを取り付ける
天井に照明を付けるための器具です。これが無いと、住む人は好きな照明器具を選べません。付けるだけで、部屋の選択肢が一気に広がります。
技能試験の候補問題にも出てくるので、勉強したことがそのまま現場の作業になる分かりやすい例です。
インターホンを交換する
電池式のインターホンが現役で残っていることがあります。誰が来たか分からないまま玄関を開けるのは、防犯上おすすめできません。
モニター付きに替えると、来訪者を確認してから対応できるようになります。特に一人暮らしの人にとって、安心感がまったく違います。
つまり、どういう仕事なのか
並べてみると、共通点が見えてきます。
| 工事 | 住む人にとっての意味 |
|---|---|
| 白熱電球 → LED | 電気代が下がる |
| コンセント増設 | 今の家電が普通に使える。タコ足を減らせる |
| エアコン専用回路 | 夏を安全に越せる |
| 引掛シーリング | 好きな照明を選べる |
| インターホン交換 | 誰が来たか分かる。防犯 |
昔の部屋を、今の暮らしに合わせて更新していく仕事です。
新築の工事が「ゼロから作る」なら、原状回復は「すでにある建物を、次の人のために整え直す」。地味に見えるかもしれませんが、住む人の生活に直接届きます。
住んでいる人の前で工事することもある
原状回復は空室での作業が多いのですが、人が住んでいる状態で工事に入ることもあります。
このときの空気は、空室とはまったく違います。
エアコンが使えない。コンセントが足りなくて困っている。インターホンが鳴らない。目の前に、実際に困っている人がいる状態で作業します。
そして工事が終わって、スイッチを入れて、明かりが点く。エアコンが動く。その瞬間の「助かりました」は、なかなか他の仕事では聞けない言葉だと思います。
学生や、転職を考えている人へ
「電気工事士」と聞いて思い浮かぶのが電柱やビルの配線だけだとしたら、それはこの仕事の一部です。
実際には、誰かが引っ越したあとの部屋に入って、次に住む人のために手を入れる仕事があります。しかも築40年以上の建物が148万戸あって、これから増えていく。仕事が無くなる心配はしにくい分野です。
そして手を動かした結果が、住む人の生活としてはっきり返ってきます。「自分のやったことが誰の役に立っているか分からない」という悩みとは、たぶん縁が薄い仕事です。
この仕事に入るには
第二種電気工事士から始まります。受験資格はありません。 学歴も実務経験も不問で、誰でも受けられます。
コンセントの増設も、エアコン専用回路の新設も、引掛シーリングの取り付けも、この資格が無いとやってはいけない工事です。逆に言えば、資格を取れば任される仕事です。
※統計は国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」(2024年末時点の推計)によります。工事の内容や範囲は物件・契約により異なります。